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気になるあの部屋の隅

仕事のコト
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仕事柄、高齢者のせん妄によく遭遇します。

端的に言うと、色々な要因が重なって錯乱状態になる状態です。

適切に対処すればすぐに治ることが多いですが、マンパワー的に対応が疎かになってしまったり(悔しい)、長引いてしまうパターンもあって厄介な症状です。

症状的には被害妄想をはじめ、叫んだり泣いてみたり。点滴や各種それなりに重要な管を見事に抜き去って、ベッド上安静のハズが、血まみれで部屋から歩いて出てくるということも珍しくありません。せん妄症状に関する症状の中でも、特に個人的に印象的なのが幻覚や幻聴です。

幻覚に関して訴えが多いのは、虫や蛇などの生き物のほか(何故か哺乳類は出ない)、顔の青白い子どもや髪の長い女性など(何故か男性は少ない)。

なぜ幻覚は具体的な虫や爬虫類、そして子どもや女性なのか調べてみましたが、どうにもはっきりした答えは分からずじまいでした。

何の根拠もありませんが、個人的には死だったり絶滅に対する根源的な恐怖が由来なのではと思っています。衰えた心身に更に身体的・精神的ストレスが加わって、脳が根源的な恐怖をイメージさせる的な。今でこそ想像し辛いですが、昔は虫や爬虫類だって噛まれれば死に直結する可能性も大いにありました。

夢野久作著のフィクション小説ドグラ・マグラの中にこんな感じの記載があったような無かったような気がしますが、読み返すにはそれなりの労力がいるのでやめておきましょう。

話を戻しまして

幻覚(幻視)の症状は当の本人には現実として見えているので、昼夜関係なく

「カーテンの隙間から青白い男子が何人もこちらを見てくる」

「蝶々が飛んでいる、ほらそこ」

「白い女の人が立っていてこちらの顔を覗いている」

など、身の毛がよだつ恐怖体験を真面目に訴えてきます。

真面目な顔で「白い女」や「青白い男子」なんて言われると、どうしても布団の中(サンクチュアリ)を侵してきた有名なジャパニーズホラーを想起してしまって、訴えがせん妄だと分かっていてもその後の夜勤は些細な暗闇も不気味に感じたもんです。

そうはいっても患者に依っては虫だったり、いないはずのお母さんだったり、息子だったり。十人十色の多彩な幻覚の訴えを聞いていると、慣れてくるもので軽く受け流せるようになりました。

ただ唯一、ある部屋を除けばですが。

ある日、とある病室に入院していた患者は夜中「あそこの天井の隅に張り付くようにして、黒い女がこちらを見ている」と天井の一角を指差しながら、術後せん妄らしき幻覚を訴えてきました。まぁいつものだろうと思い、いくつか対処(鎮痛や環境調整など)をした後、せん妄は落ち着きました。

そして少しあと、同じ病室に違う患者が入って手術をし、またもせん妄となりました。そして先述の患者と同様、夜中に「天井に張り付く黒い女」が視えるというんです。それも同じ場所を指さして。

全身鳥肌もんです。一旦患者を置いてほかのスタッフを呼びに走りました。

同じ部屋の、同じ場所を指さして、同じモノが視えていると言う

というのはこの一件が最初で最後でした。今でも思い出すとゾッとします。

その部屋は他と比べ少し薄暗いのも相まって、日頃から少し不気味な印象がありましたが、この一件以降、夜中の巡視は気が引けます。

夜勤で怖いのは幽霊ではなく患者の急変と思っていますが、よくよく考えるとやっぱり不気味だったよなぁアレと思ったので、記しておきます。

ご自愛ください。

ではまた。

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